第十二回(バイクが走り去って、配達物だけが残った)

最後の宅急便

バイクが走り去って、配達物だけが残った。  これが最後の配達になるにも関わらず、彼は最後まで変わらない優しい笑顔だった。  私はよく曲がった腰を伸ばし、なんとなく空を見上げる。  空は暗かった。  ただ夕方であるだけではない。空には配達物を...
第十二回(バイクが走り去って、配達物だけが残った)

十で神童、十五で天才、四十過ぎれば

バイクが走り去って、配達物だけが残った。 ここ数日、生きているのか死んでいるのか分からないような気持ちで過ごしていた。あまりに現実的すぎる音に、ようやく我に返る。  十で神童 十五で天才 二十過ぎればただの人。今まで散々言われてきたことで―...
第十二回(バイクが走り去って、配達物だけが残った)

人間失格

バイクが走り去って、配達物だけが残った。 中には何が入っているか見当もつかなかった。 ダンボールの箱を不器用にもカッターで切り刻みながらなんとか開けることができた。些細なことにも手間取る自分にいちいち腹が立つ。中には細かく仕切りがされており...
第十二回(バイクが走り去って、配達物だけが残った)

Re:birthday

バイクが走り去って、郵便物だけが残った。  トルクの音がいやに早く遠ざかるのは、コンクリートの群れが音を吸うからだろうか。人の寝入ったあとの街は、とたんに自分たちのものではなくなったような気配がする。なんとなく、ひとりであることを突きつけて...
第十一回(桜、ケチャップ、文庫本)

好きな文庫本発表ドラゴン

それは、入学式シーズンを終え、尚も咲き誇る桜たちに、引導を渡すような雨の日だった。   「最悪だ...」   新学期早々、1限を含む連続4コマ。内容はほとんどオリエンテーションとはいえ、春休みで緩みきった身体と心には堪える。それにこの雨。寝...
第十二回(バイクが走り去って、配達物だけが残った)

冬の残り香

バイクが走り去って、配達物だけが残った。 ダンボール箱に入ったそれは 持ち上げると拍子抜けする程軽くて 後ろに転びそうになった 丁寧にガムテープを切ると shiroのホワイトリリーが弾けた ああ匂いは忘れないものだね 中には丁寧に畳まれたダ...
第十一回(桜、ケチャップ、文庫本)

輪郭をなぞる

返事をするから、と呼び出されたのは校舎裏の桜の下だった。布団に潜ってスマホを見て、もう寝るだけだった僕は急いで勝負服に着替える。親には、コンビニに用事があったのを忘れてた、と伝えて外へ出た。 この町の夜は暗い。たまの週末に都会の方へ遊びに出...
第十一回(桜、ケチャップ、文庫本)

秘密の日記帳

僕は図書館が好きだ。古びた本の匂いと放課後の夕日が差し込む空間にたまらなく心惹かれる。うちの高校ではわざわざ図書館を利用する人なんて数えるほどしかいない。一人になることも多い。そうするとこの空間を一人占めしている事実がありふれた図書館という...
第十一回(桜、ケチャップ、文庫本)

ケチャザクラ

キッチンに立ち、ケチャップが底に落ちているジョウロに水道水を注ぐ。こうして誰も起きていないような早朝に、習慣化した作業を行っていると日常を再確認できたような気がして頭がすっきりする。ただこの歳になると自然と早朝に起きてしまうだけの話だが。 ...
第十一回(桜、ケチャップ、文庫本)

夏に散る桜

美月に服の裾を引っ張られる。  私はレポートを書き終わるまで、もう少しだったので、彼女の行動を無視した。  すると、彼女は、さらに強くグイグイと服を引っ張る。あまりの引っ張りに、キーボードを打つ手がずれた。  私は観念して、彼女の方を見た。...
第十一回(桜、ケチャップ、文庫本)

妙な噂

「ケチャップを文庫本にかけてしゃぶると美味いらしい」 4月の初旬、ようやく桜が見ごろになってきたころ、こんな噂が学校中を駆け巡った。図書委員だった俺は、今までの閑散とした図書室の様子から一変、朝の駅のように殺人的に混み合う貸出コーナーに立っ...
第十一回(桜、ケチャップ、文庫本)

オム大のオムはオムライスのオムではありません

「ケチャップってさ、さすがに不当に軽視されてると思うんだよね」  こういう切り口で目の前の男が話し出すとき、俺は脳の処理能力をつとめて他の事柄に向ける。 経験上、そのすべてが与太話だからだ。 「そうか」「そうだよ。ケチャップは味気ない、子供...
第十一回(桜、ケチャップ、文庫本)

シュレディンガーのケチャップ

───────────────────────To:[Judge]Dyham───────────────────────Title:赤き異物の風聞───────────────────────  冥土の話題は奇っ怪な異物で持ちきりでござい...
第十一回(桜、ケチャップ、文庫本)

ケチャップ桜餅

「ケチャップ桜餅という文庫本を買いますか?」「あらすじは?」「主人公は、桜餅にケチャップをかけて食べる。  すると、彼は人生の底を知り、世界の広さを理解した。そして、宇宙の断りに触れる。  と書いています。」「値段は?」「30円です。」  ...
第十一回(桜、ケチャップ、文庫本)

桜爆ぜり

曰く、古物には魂が宿ることがあるという。 年月を経るごとに物には霊性が宿り、やがて自ら変化するだけの力を得て、己を棄てた人間への鬱憤を晴らさんと活動を開始する──というのが「付喪神」という、所謂妖怪変化の類らしいのだけど。それとは別に、わた...