第二十八回(火)

蝋涙

廊下から見えた延焼の様子は並大抵ではなかった。もう既に展示物は悉くお陀仏だろう。「ああ……」狼狽する青年の心情に反して火はひどく玲瓏だった。  ワックス・ネッタドールは若き蝋人形師である。父であるロウ・ネッタドールの跡を継いだばかりの駆け出...
第二十七回(落下)

世界で一番どうでもいい

やっとだ、やっとここまで来た。 重厚なジュラルミンの扉の前に立った男は、震える手で、ポケットの錆びたドッグタグを握りしめた。その震えは散っていった戦友たちへの弔いか、それともこの先で待ち受けるものへの畏れなのか。それは男にも分からなかった。...
第二十七回(落下)

落下夢

夢の話だ。 意識ができた時には自分は落ちていた。どこを落ちているかは分からなかった。空ではなかったと思うし、地中でもなかった気がする。多分、風呂屋の煙突のようなところだったと思う。うん、都合がいいので風呂屋の煙突を落ちていたことにする。着の...
第二十七回(落下)

落としたもの

新たな家具を手に入れたその帰り道、京子は前を歩いていた男が何かを落としたのを見た。京子は自分がどうしようもない人間であることを自覚していた。だがしかし、目の前で何かを落とした人がいれば、それを拾ってあげることぐらいはする善人であろうという気...
第二十七回(落下)

数えきれない妄想の果てに

自分の趣味は飛び降りジサツだ。  いや、正確には、「頭のなかで」「飛び降りジサツを試みる」という表現が正しい。......そんなにシにたいのかって?まさかぁ。 これを読む貴方も、ちょっとでも考えたことくらいあるだろ?自身がシぬときのこと。 ...
第二十六回(ドラゴン)

ドラゴン葬

小鳥の鳴く声、木々の間を風が抜けていく音が黒い服に身を包んだ集団を森の奥、少しだけ開け日の光の良く届くこの場所で歓迎していた。彼らの視線の先には、巨岩の前にゆったりと横たえられた穢れなく白い木材で仕立てられた美しいお棺があった。お棺に彫り込...
第二十六回(ドラゴン)

龍煙

宮脇龍之介20歳、高校中退、今はフリーター元虐待児、闇金が所有するマンションに暮らしている。朝7時に家を出る。午前中はオフィスで電話を掛け続ける。電話に出るのは高齢者で、事前に渡されている文言通りに支払い情報を聞く。午後からはSNSでバイト...
第二十六回(ドラゴン)

(´・ω・`)

くるりんぱ一般共和国にすむドラゴンは猫用うな重ドリンクを飲むと、ドリンクの中のドリアン様神経伝達物質と免疫が反応して頭蓋骨消化器化症候群になるらしい。鼻から白い煙をぼうぼうと噴射して有機栽培のスマホケースを育てる仕事、あると思います。
第二十五回(魔法・革靴・風)

借り入れ

『審査の結果、今回は融資を見送らせて頂くこととなりました。 ご希望にお応えできず誠に申し訳ございません。 尚、融資の可否は、お客様の借入状況や審査基準の見直し等により日々変化───』 うるさいうるさい、黙って5万円ぐらいくれたら良いじゃ無い...
第二十五回(魔法・革靴・風)

人里離れた森深く、誰も足を踏み入れないはずの場所にひっそりと佇んでいた祠はその日、バキバキと音を立てて崩れ落ちた。   風の強い日だった。急速に発達した台風によってもたらされた暴風雨は自動車を転がし、コンクリートを叩き、そして森を轟かせた。...
第二十五回(魔法・革靴・風)

旋風

まだスマートフォンやテレビなんかに人々が支配されていなかった時代。民衆の心を掴んでいたのは、タップダンスバトルだった。  何万人にも及ぶ観客がこの日のためにコロッセオに駆けつけていた。彼らの血走った目の先にいるのは、2名のタップダンサーだ。...
第二十五回(魔法・革靴・風)

お洒落は足元から

冷たい石のロビーで親戚一同が集まって、ただぼそぼそとまるでそれがタブーかのように言葉を交わしていた。一時間ぐらいだと言っていたが、今どれくらいの時間が経ったのか、時計はあるけれど火葬が始まった時間を確認していなかったから、どれほどの時間ここ...
第二十五回(魔法・革靴・風)

風の吹かない国

ターコイズでは15年間風が吹いていない。  正確には60年前から我々の国ターコイズではほとんど風は吹いていない。  60年前の風が吹かなくなる前、ターコイズは呪われていた。ターコイズの国民全員が全身に黒斑が出てしまう呪いにかかってしまったの...
第二十五回(魔法・革靴・風)

ウミガメのスープ2 革靴編 part1

「きょうはちょうしがええき、かつお、こじゃんととれるぜよ!」 漁師の一人がおもむろにそう声をあげた。漁師たちを乗せた漁船は土佐湾の黒潮を航走し、漁船の近くには海鳥の群れが飛んでいた。それはすなわち、ここにカツオの群れがいるということを意味し...
第二十五回(魔法・革靴・風)

ウミガメのスープ2 革靴編 Part2

男は特に困窮していたわけではない。行きつけの店でモーニングを頼むのは常であったし、アンケートを採れば65%ほどの人間が認めるであろう布団で寝ている。しかし、男は革靴が食べたくなってしまった。これは酔った際に出た気の迷いではなく、数週もの間、...