第十回(輪、サンダル、古本屋)

第十回(輪、サンダル、古本屋)

勢い

「人が空想できる全ての出来事は起こりうる現実である」────物理学者 ウィリー・ガロン   この言葉が正しいのならば、俺に彼女ができるのも時間の問題だということだろう。太古の昔、ヒトは地面を見つめ続ける生活に別れを告げ、そこから数百万年掛け...
第十回(輪、サンダル、古本屋)

第六感覚環世界

掃除の合間教室の窓にもたれて立ち、僕はぼーっと校庭を眺めていた。サイズの大きいサンダルで歩く音が聞こえる。僕は聴覚プリセットでノイズキャンセリングを行った。「ねえ、こころってどこにあると思う?」話しかけてきてびっくりした。拡張視覚から、この...
第十回(輪、サンダル、古本屋)

古本、5円。

「古本、5円」 こんな店があっただろうか。中高と通う通学路の帰宅途中に、ハルは普段全くと言っていいほど意識していなかった建物があったのに突然気づいた。その建物はくすんだ木造二階建ての薄暗い建物で、掲げられている看板には「屋本古タシノキ」とあ...
第十回(輪、サンダル、古本屋)

潮騒

第十回(輪、サンダル、古本屋)

褪せた憧憬に依る

私はサンダルを履き、軽快に歩くあなたが憧れでした。屈託のない笑顔で自身を飾らないあなたを尊敬していました。他者に対して心を開くことがないように見えるあなたと仲良くなりたいと思いました。  私はあなたとは正反対の人間でした。まるで入学したての...
第十回(輪、サンダル、古本屋)

人生は各々

開け放された戸口をくぐると、いらっしゃい、と気のない声が少年を出迎える。ここのところ続いていた雨は上がったが、客は相変わらず1人だけだった。少年が適当な棚から適当な1冊を取り出し、ぱらぱらと読み始めていると、後ろからぺったぺったという足音が...
第十回(輪、サンダル、古本屋)

始まり

「これ、何だろう」 「え?どれ?」 「ほら、一番上の棚の光ってるやつ」 「何言ってるの?古本ばっかだからカバーも反射してないし光りようがなくない?」 「え?いやいや、光ってるじゃん。反射とかじゃなくて発光してるのがあるでしょ、一冊。あれだよ...
第十回(輪、サンダル、古本屋)

夕方の足音

自分の足音すら注意しなければ聞き逃すほどにうるさいひぐらしの鳴き声のなか、少年は小さな村をアテもなく散歩していた。  少年はつい先日にこの村に引っ越してきたばかりだった。夏休みのうちに環境に慣れさせよう、という両親の考えのもと、まだ学校が始...
第十回(輪、サンダル、古本屋)

府大池にサンダルひとつ

「あれ、何?」 横にいる美月がそう呟いた。私は彼女の指差した方を見た。真夜中の11時であったため、光は街灯のみで、とても暗かった。  さらに、彼女の指差した先は、街灯の光が届かない場所だったため、私には全く見えなかった。 「見えん? あそこ...