東の空に昇った朝日が一日の始まりを告げる。ありふれた、いつもと何も変わらない一日。もちろんいつもと同じように、俺たちが空に昇る太陽を見ることはない。地下の穴倉に住む俺たちに、”時間”なんてものは必要ないのだ。寝る、働く、飯を食う。ただそれを毎日繰り返す。こんな生活が死ぬまで続くのだと思うと、時々ゾッとする。
「じいちゃん、俺、地上に出たい」
「またそれか…。何度も言っているだろう。地上は危険じゃ。わしらの何倍も大きな怪物がうようよしておる。出て行ってもすぐに死ぬだけじゃ。」
何度目かも分からないこの問答も、そして取り付く島もなく否定されるのも、またいつも通り。俺が何度この話をしようと、じいちゃんが首を縦に振ることはない。
「それは分かってるけど…。でもこのまま死ぬまで地下にいるなんて、そんなの嫌だ…。それに、こないだもまた餓死するやつが出ただろ。地上に出ればなにか変わるかも……」
「無理じゃ。若いお前はともかく、ここには女子供に、わしらみたいな老人も大勢おる。彼らが地上の環境に耐えられると思うか?」
「それは……」
「それに大丈夫じゃ。わしのじいさんもそのまたじいさんもずっと地下で暮らしてきたが、結局今日まで我々は滅びずに生きながらえている。餓死者が出ているのは心苦しいが、かといって地上に出てもどうにもならんよ」
「わかったよ……」
結局いつもこうだ。じいちゃんの開いてるんだか開いてないんだか分からない目で見つめられると、何も言えなくなる。いや、実際じいちゃんの言うことが正しいんだろう。小さいころから地上がどれだけ危険な場所なのかは耳にたこができるほど聞かされたし、地上に出たからといって、都合よく何かが進展するとは限らない。きっと俺もそれを心のどこかで理解しているんだ。でも、それでも…………。
「またじいちゃんのところに行ってたの?いい加減あきらめなよー」
「うるせえ」
話しかけてきたのは弟の竜二。歳はそこまで変わらない……はずだ。いつも地上に行きたがる俺を、じいちゃんと同じように諫めている。
「地上なんて行ってもしょうがないよ。別に地下にいればそれなりに暮らしてけるんだから、それでいいじゃん」
「このまま地下にいたってただ死んでいくだけだぞ。お前も分かってるだろ。餓死するやつがここ最近増えてきている。俺たちはいいかもしれないが、もっとずっと先の子孫たちはどうだ?変わらずに暮らしていけると思うか?」
竜二の目をじっと見つめる。その目に宿る気持ちを見ることはできないが、それでも伝わると信じて、俺は口を動かし続けた。
「地上に出れば何か変わるかもしれないんだ。俺は少しでも可能性があるなら、それを諦めたくない。」
竜二はふぅーと大きなため息をつくと諦めたように口を開いた。
「地上にはでっかい生き物がたくさんいるんだよ」
「俺たちの先祖は地上で暮らしてたんだ…。地上の生物に見つからない場所さえあれば、きっと俺たちも地上で暮らしていけるはずだ」
「…………地上につながる穴は全部見張られてるよ。どうすんのさ」
「ばれない様に少しずつ穴を掘る。今ある穴を迂回して少しずつ少しずつだ。これなら気づかれることも無い」
「……仕方ないな。ぼくはいかないけど、見張りぐらいはしといてあげるよ」
「ありがとう!」
それからは、実際には結構な時間がかかったと思うが今振り返るとあっという間だったように感じる。今あるトンネル、そしてこれから掘る予定のトンネルを大きく迂回し、上へ上へと掘り進める。途中じいちゃんやほかの大人にばれそうなこともあったが、そのたびに竜二がごまかしてくれたようだ。そして、ついにその時がやってきた。
「……!出たぞ!」
指先に伝わる土の感触が無くなり、天井に空いたわずかな隙間から、痛いほど眩しい光が漏れている。これが、これが太陽か!俺は懸命にその小さな穴を掘り広げる。やっと体が出るくらいまで穴を広げると俺は地上に顔を出した。
………..なんだこれ!眩しい!何も見えない!太陽の光はこんなに強いのか!それに何だこの音は、さっきから聞いたことも無いようなデカい音が!地上の巨大生物か?まずいぞ。眩しすぎて身動きが
「おかあさーん、もぐらさんいるー」
「そうねぇ。めずらしい。きっとお引越しでもしてるのよ」
