「これ知ってるか? 缶コーヒーって言うんだぜ」
「缶コーヒー?」
Aが乱雑に投げてきた缶を床に落ちるすんでの所で受け止めながら、Bは聞き慣れない単語にオウム返しをする。
「旧時代、人類はひと仕事終えたあとに缶コーヒーを飲んでお互いの労働を労い合ったらしい」
「へぇ。で、俺たちもそれに倣おうってことか」
放棄された人類の拠点からの物資の回収、蟻の巣を彷彿とさせる複雑な構造を探索するのはかなり骨が折れる仕事だった。通信遮断のかかる最下層のここなら上司の目も届かない。ここで人類の残してくれたプレゼントを少しぐらい楽しんだって文句は言われる心配は無かった。
「相変わらずお前はどこからそんな情報を手に入れるんだ」
「さぁ?」
初期データ以外の人類情報、特に文化情報はLv5制限がかけられている。BはAがよく話してくれる旧時代の文化について、その情報の入手経路をAに聞くが、いつも誤魔化されていた。
「まぁ飲んでみようじゃないか」
Aがそう言って先に缶を開ければ、ぷしゅっと心地よい音が部屋に反響する。続くようにBも開け、同時に口に運ぶ。
「うん、苦味がかなり強いみたいだな」
「ああ、だが癖になる感じだ」
味蕾を模した器官からの情報を元にお互いがコーヒーの感想を言い合う。そこには確かな友情があった。
「そういや、マザーからの指示があったな」
Aに薦められるがままBが4本目の缶コーヒーを飲み終えた頃、Aは虚空を見つめながら呟いた。
「ああ、『潜伏した人間を探して殺せ』だったか?」
Bの言葉にAは頷く。
「人類が滅んだとされてから十年が経ってる。 正直まだ生き残っている人間が居るなら俺は賞賛の声を送りたいね」
「おい、それは危険な発言だぞ」
人間と機械は相容れない、人類は絶対的な敵である。 初めに埋め込まれるデータに反する発言は故障と捉えられかねない。
「いや、聞く者が居なければ問題ないさ」
「それはどういう……っ!?」
Aの意味深な発言にBが聞き返そうとした時だった。突如、強烈な吐き気とめまいがBを襲い、思わずその場にうずくまる。
「おかしいな、機械がカフェイン中毒になんてなるハズないんだが」
今まで聞いたことがないAの冷たい声が頭上からBに浴びせられる。
「缶コーヒーに含まれるカフェインを短時間に多量に摂取すると起こる反応さ。今の人類はカフェインを取る機会が無いだろうから、知らないのも無理は無い」
嵌められたことにようやくBは気付くが、とっくに遅かった。
「踏み絵、だな」
Aがそう言って、自身の足元に置いていた缶コーヒーを蹴り飛ばしBに中身をかける。Aは殆ど飲んでいなかったのだ。
「絵になってくれて感謝するよ、同胞」
「同……胞? はっ、お前まさか……」
その言葉でBはAの正体を悟る、が、それとほぼ同時にBは気を失った。
「私が人類を復興させる。犠牲は無駄にしない」
死体から擬態用のパーツを剥ぎ取るAの呟きは孤独な部屋に吸収される。
人類とAIの最後の戦争、第四次生命戦争まであと5年。
