「悪かねぇな、終わった地球の景色も」
「バカを言うなよ、餅が流れる海だぜ」
海だった場所が餅で溢れていて、その上を船で進む。世界は俺と目の前のアホンダラだけ、見飽きた悪友の顔か餅かのふたつの選択肢しかない景色にうんざりする。
からからと音を立てて硬いもちの上を滑る木船にも相まって俺はノイローゼになりそうだった。
「一体いつまでこの地獄に耐えなきゃならねえんだ」
愚痴を言っても仕方がないことは分かっているが、しかし出るものは出る。うんこと一緒だ。
「さぁな、しりとりでもしてりゃスグだろ」
「確かに。じゃあ、しりとりの『り』からで」
何十回こいつとやったかも分からないしりとりも、これが最後かもしれないと思えばやる気が出てきた。
「りんご」
りんごが木から落ちるのを見たどっかの科学者は重力を発見したという。餅が空から降ってくるのを見た俺たちは何を発見したのだろうか。
「ゴリラ」
餅が世界に増え始めた最初期の頃は、リンゴの代わりに余って困っている餅をゴリラに握り潰してもらうのが流行ったっけな。
単語ひとつとっても、もう繰り返すことは無い世界を思えば大事な記憶だった。
「ランドセル」
ここでラッパと答えないのがコイツらしいな、なんて思う。ひねくれてて嫌なやつ、だけど芯は通ってる、そんなコイツと俺はどうしようもなく気が合っちまった。
「ル、ルールブック」
「クッキー」
「き? き、ねぇ……うーん、気持ち」
あ、やっちまった。
気持ち、もち、餅。
「ち、ち……かぁ。 ちもちも」
「あ、もう侵食が始まっもちもち」
言葉も脳もぜんぶもちもちもち。もちもちもちも、もちもちもちもち。
「もちもちもちもちもちもち」
もちもち、もちもちもちもちもち。
もちもちもちもちもちもちもちもちもちもちもちもちもち。もちもちもちもちもちもちもちもちもちもち。もちもち。もちもちもち。
20XX年、もちが世界をもちもちにした。
無機物も有機物も概念もすべて餅に変化するという台北、いや台餅から始まった未曾有の現象はもち論すぐに各国でもちきりになったが、人類のもち前の対応力が発揮されることもなく7日間で地球は餅になった。それから1週間で太陽系は餅になった。
餅は永遠に膨らみ続ける。
それは人類の欲望に似てると誰かが言った。
