2024-03

第十回(輪、サンダル、古本屋)

古本、5円。

「古本、5円」 こんな店があっただろうか。中高と通う通学路の帰宅途中に、ハルは普段全くと言っていいほど意識していなかった建物があったのに突然気づいた。その建物はくすんだ木造二階建ての薄暗い建物で、掲げられている看板には「屋本古タシノキ」とあ...
第十回(輪、サンダル、古本屋)

潮騒

第十回(輪、サンダル、古本屋)

褪せた憧憬に依る

私はサンダルを履き、軽快に歩くあなたが憧れでした。屈託のない笑顔で自身を飾らないあなたを尊敬していました。他者に対して心を開くことがないように見えるあなたと仲良くなりたいと思いました。  私はあなたとは正反対の人間でした。まるで入学したての...
第十回(輪、サンダル、古本屋)

人生は各々

開け放された戸口をくぐると、いらっしゃい、と気のない声が少年を出迎える。ここのところ続いていた雨は上がったが、客は相変わらず1人だけだった。少年が適当な棚から適当な1冊を取り出し、ぱらぱらと読み始めていると、後ろからぺったぺったという足音が...
第十回(輪、サンダル、古本屋)

始まり

「これ、何だろう」 「え?どれ?」 「ほら、一番上の棚の光ってるやつ」 「何言ってるの?古本ばっかだからカバーも反射してないし光りようがなくない?」 「え?いやいや、光ってるじゃん。反射とかじゃなくて発光してるのがあるでしょ、一冊。あれだよ...
第十回(輪、サンダル、古本屋)

夕方の足音

自分の足音すら注意しなければ聞き逃すほどにうるさいひぐらしの鳴き声のなか、少年は小さな村をアテもなく散歩していた。  少年はつい先日にこの村に引っ越してきたばかりだった。夏休みのうちに環境に慣れさせよう、という両親の考えのもと、まだ学校が始...
第十回(輪、サンダル、古本屋)

府大池にサンダルひとつ

「あれ、何?」 横にいる美月がそう呟いた。私は彼女の指差した方を見た。真夜中の11時であったため、光は街灯のみで、とても暗かった。  さらに、彼女の指差した先は、街灯の光が届かない場所だったため、私には全く見えなかった。 「見えん? あそこ...
第九回(新天地)

新天地を求めて

東の空に昇った朝日が一日の始まりを告げる。ありふれた、いつもと何も変わらない一日。もちろんいつもと同じように、俺たちが空に昇る太陽を見ることはない。地下の穴倉に住む俺たちに、"時間"なんてものは必要ないのだ。寝る、働く、飯を食う。ただそれを...
第九回(新天地)

第二話あるある「特課二十七班」←こういうタイトルがち

「いや~お嬢ちゃんも災難だったなぁ」(お嬢ちゃん呼びしがち)(会話から始めるのあるあるだよね?) そう言って主任は鍵束をじゃらつかせながら(管理大変そう)重々しい鉄扉を開く(逆に軽そうな鉄扉見てみたい)。ぎぃぃとさび付いた蝶番の悲鳴が(手入...
第九回(新天地)

新天地

20××年ーーーー。ロジャー家の庭で一人の少年が穴を掘っていた。7歳の誕生日プレゼントで本物の植木を贈られ、とうとう鉢から植え替える時が来たのである。 「よいしょ、よいしょ、うー、つかれたぁ」 チラッと植木鉢を見る。もう、そろそろいいかな?...
第九回(新天地)

過去旅行

扉の前、先生の一声を待つ。緊張で握る拳の中で汗が滲むのが分かる。何事も第一印象だと誰かが言っていた、アレは確か……ばあちゃんだったか? 思い出そうと眉をひそめた、その刹那、廊下の奥の不自然に開いていた窓から風が勢いよく吹き込む。その突風に乗...
第八回(缶コーヒー、空、機械)

疲れた時に飲むなら?缶コーヒーVSガソリン

「ディベートやってみたい!!」 「どうした急に」 日直の号令を合図に響く「さようなら」の声が一日の終わりを告げる。帰りのSHRが終わり、体の半分ほどもある大きなエナメルバッグを持った野球部や、帰宅部の者たちが我先にと教室の扉から出ていくのを...
第八回(缶コーヒー、空、機械)

ダンサブルコーヒー

ダンスを踊るのに、一番良いのはコーヒーだ。まぁ、これを提唱した博士は遠く何世紀の向こうに死んではいるが。アルコールなんかの生っちょろい毒を飲むくらいならば、コーヒーを飲んで死ね、という考えが人口に膾炙するのも、そう長い話ではなかった。遠い昔...
第八回(缶コーヒー、空、機械)

缶コーヒーの記憶

研究詰めの日々でとうとう頭がおかしくなってしまったのか、周りから見ればそのようにしか見えないだろう。拾ってきた空き缶のごみを研究室に広げて私はそう思った。この実験がうまくいかなければ本当に頭がおかしくなる。拾った場所の座標をラベリングしてあ...
第八回(缶コーヒー、空、機械)

夕闇のカンケリ・ゲーム

公園のブランコにコーヒー片手にもう2時間も座っている男がいる。細田隆は疲れきっていた。40も過ぎて勤め先にクビを切られたのである。くたびれたスーツが彼の心情を物語っていた。 空の茜色が強まり出してコウモリの影が舞っている。流石に帰らねばと隆...