大学入試共通テストもいよいよ終盤に差し掛かり、最後の関門とも言って差支えのない数学のテストがあと五分もすれば始まるという休み時間。それなのに隣の万年成績ビリケツの皆川は余裕そうに、椅子の上でふんぞり返って天井を一点見つめしていた。
「皆川、随分余裕そうだがテストは大丈夫なのか?」
自分も勉強しなければならないのに、俺はついそう聞く。
「いや? まったく大丈夫じゃないけど」
「え、じゃあなんでそんなに余裕なん? 割と人生かかってると思うんやけど勉強しとかんの?」
皆川はそんな俺の忠告に対して馬鹿にしたような表情を浮かべて、いきなり筆箱をごそごそと漁り始めた。中で手が暴れる度に黒く汚れた付箋の端っこや消しカスが溢れ出てきながらも、やがて何かを皆川は取り出す。
それは一本の鉛筆だった。どこから見つけてきたのか、やけに角が多くて、上の方に0〜9の数字が書かれている鉛筆だった。ジョークグッズとしても2笑いぐらいしか取れない鉛筆だった。
「これ見ろよ」
「いやいや……」
いくらマークシートでも結局は計算の答えを出さないといけないわけで……なんて言おうとした瞬間にテスト開始の合図が鳴った。
◇◇◇
皆川の数学自己採は満点だった。
◇◇◇
「被験体M……あの行動は」
「やはり奴はこちらに気付いているのでしょう。『偶然的運命性操作による因果の変化観察』の被験者に無差別的に選ばれたことに気付いていた。そうでなければ自身の将来がかかったあの場面で鉛筆でマークシートを埋めるなどするはずがありません」
「ふむ……もっともな意見だな。地球人のうちどの程度の割合が被験体Mのように我々の存在を感知できるのかが不確かな状態での地球征服は危険か」
その意見には誰もが前触手腕を縦に振り下ろした。
かくして地球は支配から免れた。
