ある日、ある部室に激辛インスタントカレーが持ち込まれた。怖いもの見たさにその時部室にいた5人がウキウキでカレーをほおばった。その直後、あまりの辛さに彼らは悶え苦しんだ。地獄の業火に焼かれているかのような凄まじい痛みと熱さ。たちまち体中から汗が吹き出し胃の中で内容物が暴れまわっている。思考力がガタ落ちした彼らは奇妙な連帯感によって2巡目、3巡目とカレーを口にすると、段々とおかしなことを口走るようになっていった。
「なんで俺らだけこんな目に遭ってるんだ……?」
「みんなこの苦しみを知らずのうのうと授業受けてんだろ?」
「おかしいよなぁ、この苦しみを知らないなんて“可哀想”だよなぁ……」
「“コレ”、教えてあげなきゃね?だってズルいもんね?」
「ねー?」
彼らの目は血走っていたが光はなく、表情は翳り、声は地の底から響くような、はたまた道化のように無機質に弾んでおり、まさにこの世の終わりを体現したようだった。いつも明るく皆を笑わせていた朗らかなムードメーカーたちはたったひとつの劇物によって変えられてしまったのである。部室はあの瞬間、世界の闇の縮図と化した。彼らを止める者はなかった。余ったカレーを手に皆が部活仲間の場所へと向かうさまはハーメルンの笛の音にでも操られているかのようだった。一人、また一人と彼らは仲間を増やしていく。かつての友は皆標的。誰一人取り残さない、逃がさない。虚ろな目でゾンビのように広がっていく絶望の輪。
世界から辛味以外の味覚が消えるまで、あと、3日。
