吉原爆破計画書

吉原爆破計画書

 

真緑のシャツに上物のスーツを着た紳士が、その長身を折りながら我がオフィスの古椅子に腰を下ろしたのは夏も終わりの兆しを見せ始めてきた9月の中頃のことであった。その背の割に肉の薄い、ナナフシのような紳士は部屋に入ってくるなり窓から差し込む西日に目を細め、私にカーテンを閉め切るように頼んできた。部屋を照らすものが天井から吊り下げられた円形の蛍光灯ひとつとなり、部屋の雰囲気はどっと重いものになった。私は気を利かせて滑らせるようにコーヒーを差し出したが、彼はそれを片手で制止した。そして、誰にも聞かれぬように左右を見、後ろと天井まで確認してから押し殺すような声で喋り出した。

「私はとんでもないことをしてしまった。そのためにここに来たのです。私自身の手で、決着をつけるために。」

一息喋ったあと、紳士は俯いてしまった。これ以上は話すことすら恐ろしい様子で、右手の人差し指がわずかに震えていることが私の目に留まった。

深くは聞きませんが、と私は彼に喋りかけた。

「あなたは何をしようとしていらっしゃるのですか。それさえ分かれば私にも仕事のしようというものがあるのですが。」

それでも彼は怯えた草食獣のように黙したままで、何かを言うそぶりも見せなかった。仕方がないので、私は彼が手を付けなかった珈琲を飲み、インドから輸入した希少な煙草を吸いつつ彼を待った。ここで早々に追い返しておけば、これ以上私がここから先の恐ろしい事件に関与してしまうこともなかったであろうに。

彼は長いこと黙りこくっていた後、急に顔を上げた。先ほどまでは血色のある普段の顔であったものが、血の気の一切ない、真っ白な顔になっていた。そして言った。

「吉原を全て爆破するには何キロの爆薬がいりますでしょうか」

 

うまれは中流の階級でも、都合悪く私は三男坊であったため、あまり大事に育てられてはいなかった。次男までは両親ともに万歳で送り出してくれた大学も、私を前にしては長らく渋られた。結局そのあと二年の半ばで自主退学をしたことを考えれば、彼らの判断には正しいものもあったのだろう。将来の気質で、とにかく鶏口牛後だった私は会社に入るということがどうにもむず痒く、かと言って何か特別の資格のあるわけでもないので、仕方なく「段取り屋」を始めることにしたのだった。これであれば、他に同業者もいないし、自頭の良さだけで仕事はできるしで私にとっては良いことずくめであった。

 

 

 

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