ピンクい恋文

私は桜子と共にそれを見つけた。靴箱を開けた途端にひらひらと落ちた手紙を私は桜子と見つけた。

「うお。ラブレターってやつだ」
「マジか」

まさしく封筒も便箋もピンクい。これがラブレターでなく何がラブレターだと。しかしハートのシールを剥がして丁寧に折られた紙を開けば、そこにはセロテープで無造作に貼り付けられた赤い糸があっただけだった。しかも全体的に黄ばんでいる。朝礼まで十五分ほどあるこの時間なら廊下も混雑を知らず、ピンクい便箋に黄ばんだセロテープで貼り付けられた赤い糸に注視しながら歩いてもモーマンタイだった。

「なんか怖いね」
「意図が分かんないもんね〜」

教室について前後で桜子とそう話していると、横から誰かが覗き込んできた。そいつは私が持っている手紙をひょいと取り上げる。

「ちょいと失礼」

吉川だ。神秘部唯一の一年生にして唯一の部員、そして部長という三面性を持つミステリアス男である。ちなみにちゃんと天才でもあるらしい。

「桃色の紙に赤い糸ですか。これが靴箱に?」
「え、うん」
「ふむ……近頃頻発している小さな時間干渉の一部と見るべきか。井田さんの感性は非常に鋭いですね」

井田とは桜子の苗字だ。「なんか怖い」という発言に対するものだろう。突如として会話のボールを跳躍して盗んでいった吉川に私たちが驚いているその隙を逃すまいと吉川はさらに言葉を続ける。

「糸というのは非常に繊細でかつ強力なものであります。糸、それは芥川の蜘蛛の糸。もしくは運命の人と人を結ぶ赤い糸。それとも素麺やっぱり揖保乃糸……これはほんのジョークですが。まぁつまりはこれはただの赤い糸な訳が無いという訳なんです」
「はあ……」

「訳」が2個あるのは置いとくとしても、さすがは一人で神秘部を引っ張っている新星の言葉、自然と耳は傾いてしまう。

「で、吉川は何を言いたいの?」
「落ち着いてください井田さん、先程あなたの勘を褒めこそすれ、しかしこれはあなたには関係の無い話なのです。これは三木さんに差し向けられた善意か……はたまた悪意か、なのですから。あなたは最終運命線的にはなんら関わりがないのです」
「なっ……そんな言い方っ」

「え待って!吉川、『レッドストリング』シリーズ読んでる!?」

桜子の怒りをさえぎって私は思わず声を上げてしまう。それは吉川の言葉に驚き高揚したから。ついさっき吉川の口から飛び出した「最終運命線的には……」という言い回し、これは私がこよなく愛し、しかし勧めた誰もが脱落したことでお馴染みのラノベSF推理長編ネット小説『レッドストリングの怪奇なる探偵日記』のものだ。

「ん、もしや三木さんも読んでいるのですか。赤い糸が目に入ったものでそういう言い回しをしてしまったんですけど、レッドストリング読者仲間が見つかるなんて……」

◇◇◇

この日から四十年が経過した頃に物体を過去に転送する装置がある科学者によって独力で発明された。それは小さな石ころや、ボタンなどをまず実験的に過去に送り、最終的には一枚の封筒を送ることで役目を終えた。その封筒はある夫婦がずっと保管していた運命的な出会いのきっかけとなったもので、淡い桃色のラブレターだった。

タイトルとURLをコピーしました