サンタが父親だというのを知ったのは俺が18になって、大学に伴い一人暮らしを始めるとなった時だった。あの日、その瞬間まで俺は純真無垢なガキだったのである。俺の父はロクでもない奴で、俺が小学校から帰った時はパチンコに行っていて、俺が部活終わりに家に帰ればもう寝ている、そんな親父だった。母は俺にあんなふうになってほしくなかったんだろう、俺に関することに金を惜しんだことはなかった。家計だって十分に、いやそれ以上に厳しかったはずなのに、二つ返事で俺は修学旅行に行くことができたし、母と違っていつだって綺麗な服を着ていた。そんな家庭環境の俺にもクリスマスは当然のように訪れた。目を覚まし、枕元を見ると金のリボンで彩られた小さな箱がかわいらしく置いてあるのだ。母親だろうな、と俺はガキながら思っていた。なぜなら親父は、その箱が俺のそばに置いてあるのを見るたびに取り乱し、必ずその箱をぐちゃぐちゃに踏みつぶしたのだ。最悪だった。潰れた箱からは俺がそのころ好きだった戦隊ヒーローの変身ベルトが無残な姿になって顔をのぞかせていた。俺は、母親がただやたらめったらけなされるだけのクリスマスが嫌いだった。
母親が亡くなったのは去年のことだ。俺は今19、親父とはここ何年か連絡を取っていない。一年前に母親に聞いたことを考えると、どうしても親父に会う気持ちにはなれなかった。バイト先から家に帰る道の中、はらりと肩に白いものが降りてくる。雪だ。もう、明後日にはクリスマスなのである。あれから俺のクリスマス嫌いは一層強くなっていたが、そんな俺を無視して世界はクリスマスに進んでいく。
「よぉ、探したぞ海斗」
肩に降りかかった雪を払うと、背後からそう声がかけられた。久しく聞いていない、しかし懐かしみのある声だった。振り返れば奴は何にも変わっていない、いつも通り汚らしい格好で、煙草を吹いていた。一点違うところがあるとすれば、その右手に斧を引き摺っていること。
「親父。何しに来たんだ」
親父は肩をすくめる。
「愚問だな。お前だって、分かってんだろ」
「言ってくれなきゃ、分からない。こんな時期に帰ってきやがって、お前は本当に人の感情ってのが分からないんだな」
俺の口から、言葉にならなかったぶんの思いが、白い煙になって宙に消えた。
「殺しに行くんだよ、サンタさんを。加奈子の弔い合戦に付き合ってもらうぞ、我が子よ」
「どの口が言うんだ、お前は母さんを見殺しにしたんじゃないか」
「見殺しだぁ? お前は何にも分かってねぇんだな。いいからまぁ一寸来いや、今までの全部をお前に説明してやる」
親父はそう言うと、立ちすくむ俺の脇を抜けて、先導するように道を進んでいく。クソ親父だ信じるな、という思いと、知りたい、という思いが俺の中でぶつかった。結果、俺はクソ親父の後を追いかけることにした。俺のこれからのためにも、そして母さんのためにも。
去年の夏ごろ、死期を悟った母さんは病室に俺を呼び出した。母さんらしくない、静かで綺麗な病室だった。俺の目を見て、愛おしそうに手を撫でてから、一拍置いて母さんは言った。
「海斗、あなたの本当の父親はサンタクロース、申し訳ないけどあなたは20年前奴に無理やりされた時の子なのさ」
母さんは言い終わって、泣いていた。俺は何が何だか分からなくて、ただ白くて雪みたいな病室の壁を見ていた。
