アーサー王のオセロット城

母親が煉瓦を買った。アーサー王の城、オセロットに使われていた煉瓦だそうだ。次の日、学校で俺は間抜けの息子になっていた。

「お前の母ちゃん、詐欺られたんだって? 笑えるよなマジで」

昨日は一緒に相席食堂について笑いあっていた友達が、自分の家庭事情を「相席食堂」として消費するのは悔しかった。その日は一日中そんな感じで、次の日もまた同じような話題が続き、でも学生が同じ話に飽きるのなんて早いもので、一週間もたてばみんな忘れて、また相席食堂で知らないアイドルが体を張って海に飛び込んだ話をしていた。

母親は一か月ぐらいずっと謝っていた。もともと自分が高卒で、父親が大卒であることに負い目を感じていた母親は、これを機に自分の頭の足りなさを見せつけられた、とキッチンの床の上で泣きながら言っていた。その時俺はもう学校でその話は流行っていないことを伝えたら、母は泣いていたのをやめてちょっと微笑んでから、それは良かったわねと言ってくれた。

俺はいつの間にか大学生になっていた。母親はその時うつになっていた。元気だった時と違い、週に何度か病院に行って、見たことも聞いたこともないような薬を夜ごはんのあと毎日欠かさずに飲んでいた。飲んでいるのに、母さんの顔が明るくなる日はとうとう今日までなかった。原因について、医者は言及を避けていた。避けていたが、よっぽど母について医者より詳しい我々にとっては、原因なんて火を見るより明らかだった。煉瓦である。学生にとっては隔週放送のエンタメ番組と同じ扱いですんだ詐欺被害も、いわゆる井戸端会議にとってはそうではないらしかった。一年を通して母の心は擦り切れていった。父親は引っ越すことを提案したが、彼女はそれも断った。下手に引っ越しをすれば、本籍が変わって面倒なことが必要になるし、会社でもいろいろ変えなきゃいけないことがあって大変でしょうと言ったのだ。いつだって母は誰かの顔を見て生きていた。彼女はあれからずいぶんへたくそになった笑顔で、父を説き伏せた。

大学生になった俺に、彼女ができるのは時間の問題だったようだった。イケメンではないが不細工ではないし、自分で言うのもなんだが俺にはいわゆるセンスがあった。彼女になった女の子は、俺の一挙手一投足で笑ってくれたし、俺もその笑顔が可愛いなと思っていた。ある日彼女が言った。

「里中くんってオセロット城の煉瓦持ってるんだって? 平下くんが言ってたよ」

俺は上手く笑えていたんだろうか、分からない。平下はそれをどのくらいの人間に言っているのだろう。調子のいい奴のことだから、酒の席の10分の話題としてそれを話しているんだろう。

平下家のチャイムを鳴らした。奴が出てきて、外へ誘った。フリースを取りに家へ戻って、再び玄関に降りてきた。昔に戻ったように馬鹿な話をしながら河川敷を歩いた。そろそろ頃合いだと思って、持ってきた煉瓦で頭を殴った。アーサー王の、オセロット城の煉瓦の重みが、奴の頭に質量となってぶつかった。

煉瓦が少し欠けたが、なんだかそれが煉瓦本来の姿のような気がして、嫌だった。

 

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