そうやって、私はなつを裏切った。
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なぜかいつも小さい裏切りが多い人生だった。最初はみんなされそうな小さなおふざけ。どんどんその程度はひどくなってて、「今日も運が悪いなー」を乗り越え、憂鬱はそのうち不快と心的な痛みになった。永遠に「なぜ私だけこんなに不幸なんだ」と思い続けてきた。でも死にたいまではならなかった。私のそばにはいつもなつがいたから。
なつとは私が7歳頃に出会った。家の近くにある、この市で一番大きいスーパーに母さんと二人で初めて買い物に行った時だ。私は母さんが会計をしているうちに、2階をただただ回っていた。その時になつにばったりあったのだ。なつはすごく明るい子で、特に挨拶も交わしてないけど、その笑顔だけで私を気分良くさせてた。普段は絶対出来なかっただろうけど、私は勇気を出して声をかけた。案の定、なつは笑顔で返してくれて、その日から私となつは友達になった。
なつはその時からずっと私のそばにいてくれた。なぜ私とずっと仲良くしてるのかがわからないほどに、本当に素敵な子で。いつも堂々と顔を上げていて、空を眺めながら夢を語ってた。なつは私の家族からも、他の友達からも愛された。私が誰かに、何かに裏切られて落ち込んでいる時もなつは私の話を聞いてくれた。私が感情的になり悪口や大声を出しても、なつは全て受け入れてくれた。最初はどんな私も受け入れてくれて、仲良くしてくれて、好きでいてくれることが嬉しかった。
でもそれが負担に思えてきた時もあった。高校生になって思春期を迎えた頃だ。精神的にすごく鋭敏になっていた私は、「みんな私を裏切って、離れるから」と自分が傷つかないように、私から先になつを裏切ろうとした。なつに悪いことはできる勇気はなくて、ただ会わないようにして、会話も交わさないで、そうやって何日を過ごした。1週間ぐらいが経った頃、私はまたなつのところに戻った。それはもう決まってることだった。なつは私に何事も言わず、「最近天気が良くないね、傘ちゃんと持ち歩いてる?」って優しい言葉だけを渡してくれた。少し痩せた顔には変わらない笑顔が浮かんでいた。その日の夜はたくさん泣いた記憶がある。いつも優しいなつを私から逃げて離れようとしても結局戻ってくるだけで、ひどいことをされても変わらんく優しいなつを見てまた申し訳なくなって傷ついちゃうのは私だった。
そう、私たちの関係はなつ次第。すべてなつにかかっていた。
その後はたぶん変わらない日常だった気がする。私はまたなつに依存してばっかで、なつはそれをまた受け入れて微笑む。
日々が経ち、大学生になった私はなつと二人暮らしを始めた。家族にはいつも精神的に不安な私をなつ一人で支えられるわけがないと猛反対をした。でも私はなんかやっていける気がして。何ならなつなしでももう少しぐらい大丈夫なのでは?まで思えるようになった。
大学に慣れてからはもっと大丈夫になった。たくさんの人がいて、たくさんの思いがあった。たくさんの挑戦と失敗、少しの成功も経験した。そうやって私はいつの間にか、永遠に見つからなさそうだった夢も見つかることになった。なつがひどい病気にかかったのもちょうどその頃だ。私は忙しい中にもなつを看護した。薬を飲ませ、なつが大好きな太陽にも会わせた。それでもなつは日々痩せていき、前の元気な笑顔すら見えなくなった。それでもなつは「あんたのことでいっぱいなんでしょ?そこに集中しな。」と自分は大丈夫だと言い続けた。
私は私のなりに夢に向かって一番忙しい時期であったため、いつからか、なつの面倒を見るのもできなくなっていた。なつはぎり息だけついてる状態でもいつも優しく「おかえり」と言ってくれてた。前のように物事に裏切られることももうどうでもよくなり、なつに頼ることはもうなかった。私は私のことで夢中だった。
私の夢に関わった重要なプロジェクトは結局成功的に終わることができた。当時は嬉しさと達成感しか浮かばなくて、なつのことは考えることすらできなかった。そうやって嬉しい気持ちで家へ帰ったある日だった。
なつはもう「おかえり」という力すら残っていなかった。当たり前に聞こえてきた声が聞こえなくなって私はやっと気がついた。私はすぐなつのところへ行き、なつの様子を確認するに至った。
なつはだいぶ状態が良くなかった。今からどうしようとしても、できなさそうで。私は今にでも息が絶ちそうななつを抱きしめ、泣いた。なんでも良いから、悪口でも冗談でも良いから一言でも言ってくれと。なつは私を見てただただ微笑んで見せた。なつは結局何も言わなかったけど最後の笑顔は私に「もう私に甘えなくても一人でやっていけるよな」と言ってる気がした。
そこからはもう涙は出なかった。
なつはどんどん体が縮んで、結局は顔を落とした。
なつは私の大親友で、恋人で、家族で、支えだった。
でも、もうなつはいない。
なつがいなくても私はこれから生きていかないといけない。
実際、私はここ最近、なつのことを考えることすらできなかった。
やっとなつ離れができるかもね。
なつは弱かった私の甘えで、思春期で、弱点だ。
だいぶお世話になったし、おかげで強くなれた。
もう、なくて良いだろ。
